たのは、机の上方の壁にかけてある写真だった。紋服をつけた女の半身で……よく見ると、それは、幾年か前の彼の母親の姿なのである。それから畳の上に眼を転ずると、母親に似たものから、順次にちがったものへとなってゆく……。額がさみしく、頬のあたりに弱々しい神経的なものが漂い、鼻が目立たず、※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]が温和な円みをもっているもの。それから次第に、頭がある重みをもち、鼻が目立ち、※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]が尖ってくる。そして更に、額がつまり、鼻が頑丈になり、頬がふくれ、※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]が短くなる……。それは美の標準によるのではなくて、何か特別な順序にちがいない。そして最後の……彼が最も嫌いだといってるその一つは、最初のを母親として、いったい誰なのであろう。良一はそっと茂樹の顔をうかがった。その顔は、全体の中程にでもあったろうか……。
茂樹は腕組みをして、室の隅を見つめていた。その眼には何にも映ってはいなかった。頭の奥で、何か一心に考えつめているか、或はただ茫然としているか、どちらかの様子だった。
隣りの室でも、母親は何をし
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