、畳の上に、並べ初めた。
「茂樹さん?」
 咎めるような声に、彼は顔をあげて、襖のかげから覗いてる母親を見た。
「あ、このひと、川村さんの親戚なんですよ。僕の味方です。」
「まあ、左様でございましたか。」と母親は丁寧に頭をさげた。「先生には、もう始終お世話になっておりまして……茂樹がいつも……。」
 あとは口籠って、うつむいて涙ぐんでしまった。良一は、挨拶のしように困った。
 茂樹はもう畳の上に、小さな写真を並べながら、母親のことも忘れてるようだった。写真が並ぶに従って、後へしざってゆき、母親はそれに押出されるようにして、黙って襖の向うにかくれた。
 古い汚れた畳の上に、不思議な光景があらわれた。正面だの横向だの、或は顔半分など、瞬間のスナップの小さなものだが、そうした人間の顔がずらりと並ぶと、その一つ一つが妙に生きあがってきて、何か意味をもつようだった。その上、並べ方の順序に、驚くべき統一調和があった。殊に、男女のものがまじってるのに、その顔付だけを見ていると、男と女との区別がつかないほど、全体の統一調和がとれていた。
「先ず、最初のは……あれです。」
 震えをおびた指先で茂樹がさし
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