それから先は架空なもので、想像によるものだから、そこで範囲をきめればいいわけです。もう一歩のところです……。」
 良一は少しまいった。好きな方はどうかとききたかったが、どんなことになるか分らないので、黙っていた。青年は一人で饒舌った。間をおいて、考え考え、ただ自分の意見を述べるだけで満足して、良一の意見は求めなかった。
 池の端から切通し下へ出て、その向うのこみ入った裏通りの、小さな家の前に、青年は立止った。表に「御仕立物」という看板がかかっていた。
「ここです。」
 青年は格子戸をあけて、良一を中に迎え入れた。それから自分一人上っていった。良一はあっけにとられて、障子のかげに、土間に立って、待った。

     三

 六畳ほどの茶の間で、長火鉢の向うに、肩のほっそりした女が縫物をしていた。粗末なじみな服装で、少い髪の毛を無雑作に束ねた、四十二三歳の女だった。すっきりした眉と肉のおちた頬に、或る淋しげな品《ひん》をもっていて、※[#「臣+頁」、第4水準2−92−25]のまるみに、やさしい温良さが現われていた。相当な生活をしてきたひとで、中年になって突然不幸にみまわれて零落し、その運命
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