やっと組みついて、互いにあいてをねじ伏せようとしました。
 丸彦はおどろきました。夜叉王の強いことといったら、まるで地面からはえぬいた岩のようで、押しても引いても手ごたえがありません。うんうんもみあっているうちに、丸彦は下におさえつけられました。
 ところが、夜叉王はそれから丸彦ののどを[#「丸彦ののどを」は底本では「丸彦のどを」]しめつけようとしましたので、丸彦はそのすきをねらって、はねかえし、夜叉王の足をすくって、うまく夜叉王をおさえつけました。
 丸彦はけんめいに夜叉王を押さえつけながら、頬をふくらまして、息のかぎり、法螺《ほら》の貝の音のまねを口で吹きならしました。
 先ほどからの騒ぎと、今また、法螺の貝のまねの音を、聞きつけて、下男たちが出て来ました。
 顔長の長彦も出て来ました。そしてとうとう、おおぜいで、夜叉王をしばりあげてしまいました。
 気を失って倒れている男も、息をふきかえさしてしばりあげました。この男こそ、先日、野原で馬をつれて酒をのんでいたやつでした。
 さて、こうなってみると、夜叉王も、さすがに覚悟がよく、すらすらと白状しました。――鞍馬《くらま》の夜叉王は、
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