、どちらもそれはきれいに清算されてるし、其後、ちょっとした情事もあるにはあったが、二年ばかりこの方、芳枝さんは堅く身を慎んでるし、片野さんは時々全くの浮気をやるくらいのもので、結婚しても差支えない筈だったが、そうはいかない隠れた理由があったのか、或は二人とも同棲生活に疑惑を懐いてたのか、或は多分、親戚知友の関係とか社会的地位とか云う変梃な障害があったのだろう。そのくせ、こうしていて後にはどうなるかという、下らない不安が大きくなっていったらしい。そのため、かるい嫉妬めいた口説がたえず、而もそれを二人とも楽しんでるようにさえ見えた。云わばそうしたことが愛の遊戯だったのかも知れない。そこで俺は見かねて、「金でも儲けなさい。」と二人の心に囁きこんでやった。俺は皮肉るつもりだったんだ。ところが、それが皮肉どころか、二人の最後の逃避所となって、金さえ儲ければ末長く安身立命出来るという観念が生じてしまった。勿論それはただ観念で、二人とも浪費家だから、片野さんの家には少しの財産があるが、そして芳枝さんの小料理屋は相当にやっていけてるが、金儲けなどということには縁遠かった。然し二人がいつもその観念に逃げ
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