こむのは、俺にとっては苦笑ものだ。だからちょっとからかってやりたくなるんだ……。
 片野さんは更に酔い、芳枝さんももう酔っていた。互に別れかねてる様子だった。片野さんはどこかへ行こうと云い出し、芳枝さんはここに泊っていけと云い出した。芳枝さんにしてみれば、昨晩家をあけたばかりだし、また夜遅いので途中も困るのだった。片野さんにしてみれば、よほど特別のことでもなければ、ここに泊っていくのは体裁がわるかった。
「特別のことよ。こんなに遅いんだもの。それに、あたし酔っちゃって……。」
 だが片野さんは何かとぐずっていた。初めてのことではなし、もう分ってることだし、構わないようなものの、第一、彼は佐代子が嫌いだった。
「どうしてそう嫌うの、不思議ねえ。そんなにぶきりょうでもないし、正直だわよ。」
「正直は、ばかってことさ。虫がすかないんだよ。あんな奴、取換えちゃいなさいって、いつも云ってるの、分らないかなあ。図体が長くって、足がちんちくりんだ。頸筋が牛みたいだ。それに反歯《そっぱ》ときてる。それだけでもう、女としてはゼロだ。眼がちょっと見られるからって、鼻が曲っていないからって、反歯の帳消しには
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