れば一体、安心が出来るの。そんな気持じゃあ、結婚でもしなければ、いつまでたってもだめよ。あんなに固く約束したじゃないの。」
「だけどさ、いつもこうなんだけれど……。」
佐代子が銚子を持ってくると彼はたて続けに杯をあげた。
「君と別れて、もう夕方だろう、一人でぼんやり街路《まち》を歩いてると、またすぐ君に逢いたくなるんだ。それが嬉しいようで淋しいようで、変梃なのさ。街路を通ってる女が、どれもこれも、まるで無関係な他国人のように見える。そして、俺ももしかすると、彼女がいなかったら――君のことだよ――彼女がいなかったら、それらの女たちの誰かと結婚するようになるかも知れなかったんだ、ざまあ見ろ、いい気味だ、とそんな気持がして、それから、ふと、空を仰いだりするひょうしに、君のことが憎らしくなるんだ。今はお互いに愛してるけれど、いつ、ほかに、僕に恋人が出来るかも知れないし、君に恋人が出来るかも知れない。その時は、互いに、隠さずに打明けると約束したね。その約束を守ってもらいたいんだ。君に恋人が出来たなら出来たで、そりゃあ仕方がない。はっきりそう云ってくれればいいんだ。だまされるのは一番たまらない。
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