れてる。
 ――いったい、どんな気持だったんです。
 ――分らない。
 ――あんなに嫌ってたでしょう。最上の放蕩ですかね。
 ――ちがう。
 ――今もやはり嫌いですか。
 ――分らん。だが好きじゃあない。
 ――好きでなけりゃ、嫌いというものでしょう。まあいわば、臭いもののにおいをかぐといったところですかね。
 片野さんは嫌悪の渋面をした。
 ――それとも、あなたが抱いてたのは、単なる肉塊でしたかね。
 片野さんは眉をひそめた。
 ――なぜ最後まで犯さなかったんです。少し卑怯でしたね。
 ――何もかも卑怯だ。
 ――いやそんなことはありません。勇敢でしたよ。歯がかちあって、音をたてたじゃありませんか。
 ――ばかな。
 片野さんは腹を立てたらしい。何を云ってももう返事をしないで、しきりに酒をのみだした。
 ――ちょっといいじゃありませんか。ごらんなさい、佐代子を……。
 片野さんは眼もあげなかった。然しそこにじっと落着いてるところを見ると、或は、もう全然佐代子を無視してるのかも知れなかった。
 けれども、佐代子はちょっと見直された。眼の奥の黒い影が、へんに深々と光ってるようだった。快活
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