」
「でも聞いてると、いい気持ですわ。」
「いい気持だって?」
佐代子はうっとりと、大きく眼を見開いていた。
「まあ、冷い手ね。」
さわった拍子に、芳枝さんは佐代子の手をちょっと執った。佐代子はぼんやり眼を宙にすえたまま、益々寄りそってきた。彼女にとって芳枝さんは、何かしら貴重なやさしいなつかしいもののような有様だった。
「一杯のまない、温まるわよ。」
佐代子は杯を受けた。そして二人はとりとめもない話をしながら、酒をのんだ。佐代子はすぐに赤くなった。そして身体をくねらして芳枝さんにくっついてくるのだった。
「あたくし、これからどんなにでも働いて、もっと店が儲かるようにしますわ。酒のみのお客さんには、あとからあとから、お銚子を出してやるの。美智子さんみたい、少しお上品すぎますわ。それに、お料理だって、もっと高くしていいんですわ。」
芳枝さんはびっくりしたように彼女を眺めた。そして、つと立上った。佐代子と並んで、くっついて、手を執りあったりして、銚子を前にして、そこに腰掛けてたのに、一層びっくりしたらしかった。
「もう寝ましょう。」と彼女はぽつりと云った。
佐代子はぽかんとしてい
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