は佐代子と二人で、ぽつねんとストーヴをかこんでいた。寒い晩だった。
「冷えるわね。あたしに一本つけてくれない。」と芳枝さんはいった。
佐代子はお燗をし、見つくろいの小皿を添え、表の締りをし、それから二階にいって、丹前をもってきてくれた。
その丹前が、芳枝さんの気を引いたらしい。彼女は珍らしそうに佐代子を眺め、小座敷の上り框近くにストーヴを引寄せ、そこに腰かけて、佐代子にも杯をさした。
「一杯のんでごらん。」
佐代子は笑っていた。
芳枝さんは紙片に、いろんな数字を書いては溜息をついていた。
「どうしてこう儲からないのかしら。」
「お酒のはかり方を、ちょっとつめると、ずいぶんちがいますわよ。」
芳枝さんは頓狂な声で笑った。
「まあ! 佐代子、お前にそんな智恵があるとは思わなかった。」
そして彼女はまた珍らしそうに佐代子を眺めた。
「あたしね、これからお金をためようと思ってるの。無駄使いもおやめだ。お前さんも万事気をつけておくれね。お金が出来たら、お前さんにももっと何とかしてあげるわよ。」
佐代子はうっすらと笑った。
「ここにいて、何かつらいことはないの。」
「いいえ。」
「淋
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