から向うむきに寝返った。大きな乳房がゆらりと揺れた……とおれは感じた。そう感じさせるものが、彼女の体躯に、殊にそのまるっこい背中にあったのだ。寝間着は着てるが、洗いざらしのその布地はガーゼのように薄く、それがぴったり絡んでる肉体は、厚ぼったく重々しく、そして柔かな温気を漂わせている。おれはその温気のなかに没入したくなった。がその時、おれのすぐ鼻先に、彼女の耳があった。
その耳は、寝乱れた髪の中からへんになま白く浮き上っていた。いびつな楕円形が更に長めに渦巻いて、その耳朶の下端は、ひきつったように頸部にとけこんでいる。耳朶というものは、おれが思うには、頬から頸への肉附とはくっきりと区切られて、まるっこく盛り上っているのが、上品なのだ。ところが、女の耳には何如に下品なのが多いことか。喜久子のもその一つで、下端の区切りがなく、地肌へひきつられて融けこんでいる。――その耳を、中野が舐めたのだ。
そのことは、彼女が自ら告白したのだから、嘘ではあるまい。たといおれが強要したにもせよ、そんな話をとっさに作りだせるほど利口な彼女ではない。
彼女と互の肉体を識り合う仲となってから、おれはしばしば中
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