中の明るみ全体も黄色っぽい。おれは眼をこすり、立ち上って両腕をぐるぐる廻し、坐って額を叩いた。
「あら、どうしたの。」
喜久子がこちらを向いて、眼をぱっちり開いていた。その眼もちょっと黄色くて、そして何にも見ていないもののようだ。おれは頭から布団にもぐりかけたが、彼女の体温に引かれて、その大きな乳房に顔を埋めた。彼女は柔らかい片腕をおれの首に巻いた。おれの眼から涙が出てきた。悲しいのではなく、ただ涙がしぜんと流れた。それから、呼吸が苦しくなった。おれは自分で自分の息を塞ぐように、彼女の乳房にますます顔を押しあて、両手で縋りついていった。そして彼女の体温に咽せ返ると、寝返って彼女の方へ背を向けた。
おれは酔っていたのではない。だが、すべて夢のような心地だ。暫くうとうとして、またはっきり眼が覚めた。彼女はよく眠っていた。おれはそっと起き上って、寝間着をぬぎ捨て服装をととのえた。そして草履をつっかけて、外の屋上へ出、木の腰掛に身を托した。かすかに冷気を含んだ暖い大気が、ゆるやかに動いていた。暗い空に、ところどころ、星が杳かに見えていた。おれはもう何も考えず、星の光りに瞳をこらして……そし
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