の音楽家と変な仲だと思ったんでしょう。」
「変な仲だっていいじゃないか。」
「だって、私はマダムを好きですし、マダムは私を好きなんです。」
「ほう、相愛の仲か。」
「いいえ、違いますよ。ただ好きなんです。……私はあなたとマダムとのこともよく知っています。けれど、それは別の問題です。私は何とも思ってやしません。そんな問題ではなく、ただ、私はマダムを好きですし、マダムは私を好きです。その私が、ほかに恋人を持ってるなどと誤解されるのは、つらいことです。マダムは誤解してるんです。私からあまり弁解するのもへんですから、あなたからも、口添えして下さいませんか。」
「つまり、その音楽家が君の恋人でないということになれば、それでいいのかい。」
「そうなんです。」
「そして、それが本当なのかい。」
「本当です。」
「そんなら、もうそれで構わないじゃないか。」
「ただ、マダムから誤解されて、怒られてると、私はいやなんです。」
「そんなこと、わけはない。僕からもよく言ってやろう。」
「お願いします。」
話はそれで終った。ところが、やがて酒場にはいって、喜久子の顔を見ると、突然、おれは自分の立場の滑稽なのを
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