れよりか、まったくふしぎよ。」
 ふしぎというのは、七時のところにだけ一枚残ったことだった。彼が言うには、この頃、毎日続けて朝の七時に夢をみる。へんな夢をみる。それが気になっていたところへ、トランプがまたそれを示した。
「マダムも、七時に夢をみるでしょう。」
「七時頃、夢なんかみないわよ。」
「でも、今にきっとみるようになってよ。」
「どうして。」
「占いに出たんだもの。七時に夢をみたら、どんな夢だか、あたしに話してね。ちょっと気になることがあるのよ。」
 彼はスぺードの7を手に持ったまま、睫毛の長い黒ずんだ眼で、彼女の顔をじっと眺めた。彼女は笑みを含んでその視線を受け留め、彼のグラスにウイスキーをついだ。
「さあ、占いの一杯よ。」
 彼は一息にそれを干して立ち上った。おれに一礼した。
「どうぞ、ごゆっくり。お先に失礼します。」
 一人になってから、おれは急に癇癪が起りそうで、歩き廻った。飲みなおしに、日本酒の熱燗を頼んだ。もう湯はさめきっていた。ぐずぐずしてると、階下の表口ばかりでなく裏口も閉めきられて、厄介なことになるかも知れなかった。
「いいさ。夜明しで飲むよ。」
「じゃあ、あた
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