しもつきあうわ。」
二人とも酔ってたけれど、そんなことになったのは、中野の幻影が残ってたせいもある。その幻影をそのまま置き去りには出来なかったのだ。
酒場の奥は六畳の日本室だ。置床と押入があって、雨戸に硝子戸にカーテンと、わりによく出来ている。そこに、小机、用箪笥、鏡台、食卓、火鉢、其他一通りの器具が、ごっちゃに雑居している。おれと彼女は、電熱器のそばに一升瓶をひきつけ、飲みながら夜明けを待った。待つうちに酔いつぶれた。何かしらもうめちゃくちゃだった。そしておれは彼女の体温の中に沈没した。僅かに覚えてることは、おれが少しく狂暴だったことと、彼女が少しく冷静だったことだ。彼女は衛生器具を備えていた。それから、その後も、彼女は冷感性かとも思われるふしがあった。ただ、彼女の乳房と、腿は甚だしく豊満だ。おれがもし画家だったら、乳房と腿だけを巨大に誇張して彼女の肖像を描くだろう。
その巨大な乳房と腿とは、おれの理智を麻痺させ、おれの感情を麻痺させ、おれの眼をつぶらせる。そこでは、眼を開くことが不安で、眼を閉じることが楽しいのだ。それでも、おれは時々あばれた。彼女を実は愛してるのか憎んでるの
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