見えたのだ。そしておれは、中野の姿態と喜久子の乳房と、両者を繋ぐ喜久子の微笑の眼眸とに、苛立たせられ、また情念をそそられた。そこで立ち去ればよかったのだが、未練がましくねばったために、変なことになった……いや、なしてしまったのだ。
 喜久子は酔った時の癖で、おれ達に煙草をふるまった。その煙草はまた、もう店をしめるという合図であり、帰ってくれとの催促なのだ。雇いの小女はもう先刻帰っていってる。
 中野は煙草に火をつけて、それから言った。
「トランプを貸してよ。」
「どうするの。」と喜久子は尋ねた。
「あれをしてみるのよ。」
「じゃあ、やってごらんなさい。」
 なにか二人だけの約束事らしい。
 中野はトランプを並べた。円形に時計の文字盤通りに、四枚ずつ十二ヶ所、そして中央に一ヶ所、その中央からめくり初めて、出た数字のところへ移ってゆく。時計占いだ。彼は器用な指先で札をめくってゆく。中央のキングが四枚揃って開いたところで、調べてみると、七時のところに一枚だけふさったのが残っていた。
「それごらんなさい。」と喜久子は言った。「一杯だけよ。どっちにするの。」
「いいえ、お酒はもうたくさん。……そ
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