た新らしさで、明るみのうちに曝け出されていることか。
「窓をしめてくれないか。」と彼は云った。
 中西は立って行って窓の戸を閉めた。すると縁側の障子だけからさし込む光りが、室の中の陰影に程よく融け込んで、柔い夢のような明るみを拵えた。彼は何故ともなくほっと吐息をついた。
 障子にさしてる日の光りで、朝の九時頃だと彼は思った。(そう時間を推測したことが、彼には自ら不思議に思えた。)八重子さんが尋ねて来た。
 彼女は座に居る人々に一礼したまま、黙って敬助の枕頭に寄ってきた。敬助はじっとその顔を眺めた。すると彼女の眼から涙が出て来て、遂には其処につっ伏してしまった。
「もう大丈夫です。」と敬助は云った。
 八重子は顔を上げた。もう泣いてはいなかった。
「御免下さいね。」そう彼女は云って微笑もうとしたらしかった。然しその微笑は、顔の筋肉を歪めたまま中途で堅くなった。彼女はそれをまぎらすためか、敬助の頭の下の氷枕に触ってみた。氷が水の中で音を立てた。その時初めて敬助は、自分が高熱に襲われてることを知った。
「僕はよっぽど熱が高かったのか。」と敬助は尋ねた。
「うむ、一時は心配だった。」と中西は答
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