る後頭部の力とが、暫く相争っていた。やがてその両方の力が平均すると、何か張切った綱が切れたような気がした。と急に明るくなった。――敬助は眼を開いた。
黒い紗の布を被せた電球のタングステン線が見えた。それをじっと見ていると、胃袋の底から重苦しいものが逆にぐっと喉元に込み上げて来た。息がつまるような気がした。で両肩に力を入れてその重苦しい固まりを押え止めると、胸から一人でに大きい息が出た。あたりはしいんとなった。
輪郭の線が幾つにもぼやけた二三の顔が、彼の方へ覗き込んでいた。眼ばかりが馬鹿に鋭く輝いていた。そのうちの一つが急にゆらりと動いた。すると何か大きい物音がして、耳にがあんと反響して、頭の底まで震え渡った。
その響きが静まると、意識がはっきりして来た。先ず天井板が眼にはいった、板と板との重ね目が馬鹿に大きくなって、それから人が三人坐っていた。
それだけの簡単な光景が、強く彼の頭裏に飛び込んできた。と其処には前から深く刻み込まれていた別の光景があった。そしてその中に新らしい光景がぴたりと嵌りこんだ。二つが一つのものになってしまった。ただ何か一つ足りないものがあった。眼球をぐるり
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