これを、驚くことには二つも平らげた女がいる。
 京子はまあ中肉中背だが、光子はそれより少し背が低く痩せている。鼻がつんと高く、眼に鋭い光りがあって、謂わば貴族的にインテリ的に見える。
 光子はしんから怒っていた。京子よりも本気で怒っていた。洋裁店で、デザインもやり、ミシンも踏んでるのだが、客筋から届けられた南京豆を朋輩といっしょに食べてる時、光子があまり貪りすぎると皆から非難された。
「だって、痩せぎすの食い辛棒だなんて、ひどいことを言うんですもの。」
 それはそうに違いない。肥った女よりも痩せた女の方が大食いであることは、昔からきまっている。そんなことより、たかが南京豆をかじりながら、どうして口喧嘩などになったか、その方が興味深い問題だが、それは御婦人のデリケートな神経に関することで、他からの窺※[#「穴かんむり/兪」、第4水準2−83−17]をなかなか許さないのだ。
 光子は涙ぐんでいた。口惜しいとか悲しいとかいう涙でなく、立腹の涙であることは、額に少し青筋を浮べてることで分る。
「癪にさわるから、南京豆の殼を、力いっぱい投げつけてやったし、室中に投げ散らしてやった。」
 それでみ
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