大自然を讃う
豊島与志雄
人の生活に最も大事なのは、自分の生を愛し慈むの感情である。生きてるということに対する自覚的な輝かしい感情である。なぜならば、そういう感情からこそ、本当に純な素直な力強い生活心境が生れてくるのだから。
この自分の生を愛する心を、吾々は忙忽たる人事のうちにあって、往々にして失いがちである。そして第二義的なものに――生の本質にではなくして生の便宜たるものに――ばかり眼を向けがちである。名誉だの名声だの金銭だのというようなものが、更に卑近な方面では、衣食住に関する余贅なものが、吾々の前に立塞がって、吾々の心を惑わし煩わしがちである。勿論それらのものは、生活に必要であり、活動力を刺戟しはする。然しながら、それらのものに囚われる時、それらのものばかりを追い求むる時、人はただ功利に走って、本当の生活の味を味い得なくなる。それらのものが目的となって、生きることが方便となる。
自分の生を――一生を方便とする、それほど惨めな浅間しいことがあろうか。人にとっては生きることが目的であって、名誉や金銭や名声や衣食住に関する余贅などは、生きるための方便であるべきである。(勿論茲に
次へ
全4ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング