云う生きるということは、単に生命を持続することばかりでなく、生きるということが必然に内包してる、仕事や働きなどをも含めて云うのである。)そして人を正しく生かすものは、己の生を愛する心である。
己の生を愛し慈む心を、吾々は大自然に接する時、最も多く体得する。
大自然に接すると、吾々は自己の微小を感ずる。人生に於て吾々の眼を強く惹きつけていたあらゆるものの価値が一時に払拭され、凡てのものの中心であった自分自身が微々たるものになって、ただ悠久永劫な大自然のみが、何物にも無関心な大きさで君臨する。その時吾々自身は、もはや、地上の虫けらにも等しく浜の真砂の一粒にも等しくなる。さまざまの雑念に脹れ上っていた吾々の心は、それらの雑念を払い落して、赤裸々な清さに澄み返り、さまざまな雑事をまとっていた吾々の生は、それらの雑事を払い落して、ただ在るべきままの姿で横たわる。其処にはもはや生も死もなく、生死を超えた悠久な落付きのみがある。そしてこの偉大な静平の中に於ては、ぽつりと冴えた心の眼が、自分の露わな生の上にじかに据えられる。それは輝かしい直接内観の瞬間である。生きてることが如何に有難く貴いかを、し
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