学」や「文芸台湾」などに拠ってる人々に、象徴として提出してみたい。文学の独立発展のために彼等は骨折っている。ところで、台湾に於ける文学が、東京の主流に対立して何等かの独自性を獲得することを目指す場合、それを往々にしてエグゾチスムに陥るし、民衆の生活をいとおしんでレアリスムに徹しようとする場合、それは往々にして発展を阻害されるものに突き当る。そういう意見を彼等の中から私は聞いた。知本のあの美しい少女のように、大地を跣でしかとふまえながら、美しい顔容でつっ立つことが、文学では出来ないものであろうか。台湾笠に模様布をつけるという珍らしい装いは、思想の飛躍と考えてよかろう。ただ悲しむべきは、レアリスムに徹することによって発展が阻害されることもあるという、その事実である。
*
おかしな事実がある。
北投温泉といえば有名だ。それは台北から汽車で僅か三十分の距離で、湯の量は豊富、溪流に沿って林間に旅館が点在し、同宿の村松梢風君はここを小箱根と称した。その某旅館でのことだが、或る夜、檜の床柱の一本が、ギイギイ鳴りだした。立上って見調べても異状はない。手で叩いてみても音はやまない。柱の或
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