き、井手氏は中途で建造を放擲した由であるし、現在、全体と細部との観念の不統一が観取される。それにしても、この建築は特殊な美観を持っているし、井手氏の創意を尊敬せしめる。
斯かる創意が、台湾の各方面に要望されるのである。彰化の八卦山頂の北白川宮殿下記念碑は、凡そ記念碑としての優秀なものである。台南市の駅前から銀座通りへ至る間の鳳凰木の並木は、凡そ並木としての秀逸なものである。其他いろいろ挙げたいものも多少はある。そして更に、将来に対して多大な創意が要望される。文学についても然りである。
台東からさほど遠からぬ処に、知本温泉というのがある。河原の中に温泉が湧き出し、そこに小屋掛してあって、土地の人々が浴する。その河岸の広場が、台東から枋寮へ至るバスの休憩所の一つとなっている。この広場に、少女が立っていた。竹の皮で造った三角形の所謂台湾笠をかぶり、笠のふちから肩へかけて、花模様の布を垂らし、青布に細帯の姿で、足は大地にじかに跣である。この少女の顔容、この上もなく健康で端麗で、吾々同行者一同期せずして、彼女を以て台湾一の美人だとした。
この少女のイメージを、台湾に於ける文学者達、「台湾文
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