ばかりの山も、見渡す限りの甘蔗畑も、甚だ微弱なものと云わねばならない。熱帯と亜熱帯とに亘る本島の炎暑も、さほどのものではない。
 溪の水量の激変は大なる熱情の変動を思わせるが、温度の変化は熱情的というよりも寧ろ病的である。台湾の気候は大体、北部と南部とでは、その雨期と乾燥期との時期に於て対蹠的であるが、その変化目の――例えば四月頃の気候は、病的というの外はない。冬服の気温から単衣一枚の気温に至る間を、幾度も往復する。日によって変るし、一日のうちでも朝夕に変る。北方の台北に於てばかりでなく、南方の高雄に於てもそれが多い。この気温の不順不同は、所謂三寒四温どころのものでなく、ヒステリックである。この季節、気温に敏感な人々は、ヒステリーの妻と一緒に暮してる思いがするだろう。
 固より、ヒステリーのうちにもコンスタントなものはある。竹風蘭雨などはその一つだろう。新竹州あたりは常に強風が多く、田畑の畦には竹などを並べ植え、道路わきにはモクマオウを移植して防風林とし、農作物其他への被害を防いでいる。また、宜蘭方面から基隆方面へかけては、雨が非常に多く、基隆のことを洒落て雨港とも称するほどである。こ
前へ 次へ
全15ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング