、物を云いたくない時機にあった。或る一つのことに思い耽って、精神内のぽつりとした明るみを見守っていた。彼は話しかけてくる。私はうるさくなって、今は口を利きたくない時だから黙っていてくれと云った。今自分が考えてることは誰にも分らないような種類のものだと云った。彼は口を噤んで、娘の子のような眼付で私の方に窺いよってくるのだった。一体この男は、痩せて眼が鋭く、ひどく意志的に見える一面と、淋しげな微笑をした、投げやりな諦めの一面とを、持っていたのであるが、その二つの面のくいちがった隙間から、時々、内省的な深い空虚を示すことがあって、それが私の注意を惹いていた。その内省的な深い空虚に、私はその時ぶつかった。そして変に淋しくなって、自分の考えてることが人に分らないというのは、例えば……と、前述の食膳や臥床の話をしたのである。
 彼はおとなしく聞いていた。初めは私の顔をじっと眺めていたが、しまいには眼を伏せて、手酌で酒をのみながら、もう返事もしなかった。話し終っても、黙っていた。私も口を噤んだ。分ろうが分るまいが、どうでもよいのだ。お互に相手を人間とは思っていないような沈黙が続いた。
 そのうちに彼
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