分の寝台へ戻っていった。どの寝台も寝静まって、カーテンがはたはたと揺めいているきりだった。
ところが、私は喫驚して立止った。中程に一つぽかんと口を開いてる私の寝台の、すぐ上の段のカーテンの裾のところから、こちら向きに、人の足がぶら下っていた。膝から先だけのむき出しな片足で、だらりと垂れ下って、それが列車の動揺につれて、ゆらゆら……ゆらゆら……手招きでもするように動いていた。
よく見ると、死人の足でもなさそうだった。
寝呆けてるんだな。
そう思ったとたんに、足が寝呆けてると口の中でくり返して、私は一人で可笑しくなった。
が不思議な足だった……というよりも、初めてつくづくと眺めたので、不思議だったのかもしれない。
浅黒い男の右の足だったが、見れば見るほど変な恰好に思われてきた。向う脛の骨が張子の骨のように際立って見える、痩せた細長いやつで、黒い毛が一本一本粗らになって生えていた。それが次第に、骨と皮ばかりに細っていってる先に、踝《くるぶし》の骨が腫物のように高まって、そこから、がくりと斜めに折れ曲って、馬鹿に大きな足先きとなっていた。太い針金のような筋が甲に五本分れ出て、細長い
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