中に生きてるのだった。
 一階には桂介夫婦と二人の子供とが暮していて、手狭なところから、日用品以外の家具什器の類はみな、二階の片隅の板戸で仕切った中に納められている。それらの物品も、嘗て、罹災者などに分ち与えたり売り払ったりした後の残りだから、大したものでもないが、それをカヨが後生大事に張り番してる、というような恰好に見える。その上、彼女自身、いろんなつまらない物を大切に保存している。
 第一に、大小さまざまなぼろ布が、行李二つほどある。絹布、綿布、洋服地、毛布、などの切れ端で、かき廻すと、絵具箱をひっくり返したような色彩の花が開く。そのぼろ布をためてゆくのが、彼女の楽しみらしい。何に使うという当はないが、ただ、各種の衣裳の象徴なのでもあろうか。それから、桐箱や紙箱にはいってる風呂敷がたくさんある。
 次に、彼女は貨幣をたくさん集めている。小さな仏壇のわきに、白木の平たい箱があって、その中に、手にはいる限りの貨幣を投げ込む。古銭蒐集という趣味ではないから、珍らしいものは殆んどなく、小額紙幣の間合に時折出てくる安っぽい貨幣を、見当り次第に貯えるのであり、桂介や久子から貰ったものが多い。明
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