かったので、桂介はそれに同意して、土蔵の内部を改造し、一家中で住むことになった。――その時から、カヨは一人で二階を占領し、そこに腰を据えてしまったのである。
あちこちに、新築の家がふえていった。カヨは憐れむように言う。
「あんなお粗末な家をつくって、どうするつもりでしょう。こんど戦争になったら、ひとたまりもあるまい。それに比べると、うちは安心ですよ。」
再び戦争が始まるものと、彼女は確信してるのである。戦争になれば、この前と同じ情況になるものと、思ってるのである。だから、土蔵は最も安全なのだ。
隣りに、鉄管を扱う家があった。径二十センチほどの長い鉄管を、トラックに満載してどこからか運んで来、空地にそれを積み重ね、暫くすると、またトラックに満載して、どこかへ運び去るのである。その家が、新たに建て増しを始めて、白井家の敷地とすれすれに地割りをした。カヨはその方へ気を配った。
「家というものはね、地境いから軒先三四尺は離して建てるものですよ。お隣りはどんな建て方をなさるか知れないが、地境い一杯に建てられるといけないから、前以て注意しといてあげなさいよ。」
三四尺のことなら、どうだって
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