狂ってる暴風雨の音は、遠くへ消え去ってしまい、土蔵の中はひっそりと静まり返っていて、別世界の感じだった。想像も及ばないほどの不思議さだ。ふだんは、土蔵の中は薄暗い冷々とした不気味な場所だったが、暴風雨の時には、全く安らかな隔離された場所だった。母も一緒に土蔵へはいったことがあるし、あの時のことを、年老いた今でも覚えてる筈である。――その同じ土蔵なのだ。戦災に破損しているし、内部は住居向きに改造してはあるが、それでも土蔵たることに変りはない。入口の扉を閉め切ると、屋外の物音はあまり聞こえなくなる。二階とて同じであろう。実の笹藪の中の犬の足音など、果して聞き取れるであろうか。
 然し、そのようなこと、桂介は胸にひめて黙っていた。
 そのようなことを知らない久子の方が、桂介に囁くのである。
「お母さんの話、なんだかへんね。」
 へんだというのは、遠慮してるので、実は気味わるがってるのである。
 カヨに向っては、久子は、皆と一緒に一階に寝ることを勧めた。
 カヨはちょっと襟を正すような様子で、きっぱり言うのである。
「わたしが下に寝たら、二階には誰が寝ますか。二階を空け渡すようになったら、この
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