で、親しげに話をした。久子はお茶をいれて、しばらく世間話に加わり、それから子供達を連れて菓子を買いに行った。帰って来ると、二人の気色が変っていた。美津子は菓子にも手をつけず、そこそこに辞し去った。
 珍らしいことには、カヨはしんから腹を立てていた。
「あんな厚かましい、恩知らずの成り上り者は、もう家に寄せつけてはいけません。」
 何をそんなに怒ってるのか、久子は尋ねかねたし、カヨもそれより口を噤んで、二階にひっこんでしまった。
 食事は一階でみな一緒にするのである。桂介が帰ってきて、夕食の時に、カヨは言った。
「戦争に負けて、人間もみな悪くなった。昔は、政治に関係すると、損をしたものですが、今では儲けています。木村さんがそうです。あんな人と交際してはいけません。」
 何のことか桂介にはよく分らなかった。亡父の正秋は、晩年、政治に関係するようになって、だいぶ家産を傾けたことは、桂介も知っている。家屋や敷地をカヨの名儀にしてあるのも、万一の場合を慮ってのことであろう。然しそれが、木村又太郎と何の関わりがあるのだろう。
 カヨはもう、怒ってるというより、心配してる方が多いようだ。桂介が尋ねる
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