土蔵の雰囲気とか、戦争についての謬見とか、そんなことでは、彼女にとっては理由になりそうにない。考えあぐんだ末、桂介はよいことを思いついた。白壁造りの家にするのだ。縁側や雨戸は見遁して貰う。だいたい三方とも、羽目板ではなく白壁にする。それなら土蔵と大した変りはない。たとい火災があったとて、まあ大丈夫だろう。建築費の点も、僅かな坪数だから、大したこともあるまいし、そのようなことをとやかく言うカヨではない。
 白壁造りの家のことを、桂介がぽつりぽつり匂わせると、カヨは次第に乗り気になってきた。
「そのような家は、今はなくなったけれど、昔はよくありましたよ。」
 而も、由緒ある旧家に多かったのだ。カヨは白壁造りに賛成した。白壁造りに賛成したことは、つまり新築に賛成したことである。それでもやはり、彼女は白猫を抱いて何やら考えこんでいる。彼女の顔を見ても、猫の顔を見ても、何を考えてるのかさっぱり分らない。
 美津子夫人は、白壁造りの話を聞いて、呆れたように眼を丸くした。
「まあ、今じぶん、なんて考えでしょう。」
 彼女は自らカヨを訪れて来た。
 客まで一切、二階の室には通さないのである。二人は一階
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