カヨの気分も違ってくるだろう。たとい二室ほどでもよい。一室をカヨの居室にし、一室を子供達の居室にする。
カヨは子供を嫌いではない。二階で遊ぶことは禁じているが、靴下の繕いは一手に引き受けている。桂一が感冒で熱を出した時には、いろいろと面倒をみてやり、夜中にも数回、二階から降りて来るのだった。足音を盗んでまで階段を降りて来た。久子がふと眼をさますと、桂一の枕頭にカヨが木像のように坐っていた。二燭光の電球に更に覆いをした薄暗いなかに、半白の髪の頭を傾け、仄白い顔を冷たくして、桂一の寝息をじっと窺っている。久子はまだすっかり覚めきらぬ心地のなかで、ぞっと冷水をあびた思いがして、飛び上るように身を起した。
「静かに。」とカヨは振り向きもせずに手で制した。「このぶんなら、じきになおりますよ。」
カヨは足音を盗んで階段を昇っていった。
そのようなことが、久子には夢かとも疑われた。気持よい夢ではなく、悪夢のような感じだった。土蔵の雰囲気のせいなのであろうか。然し桂一の病気は、予言通り間もなくなおった。
新築について、カヨを説得しなければならない。これが困難だった。耳の錯覚とか、眼の錯覚とか、
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