た。然し、その対策はもう出来ている。家屋を新築することだ。
家屋新築は、資金の点から見ても容易でなかった。ところが、亡父正秋の知友で、衆議院議員になってる木村又太郎から、耳よりの話があった。木村自身からというよりも、夫人の美津子からの話である。邸宅新築のために材木を買い入れておいたところ、建築法令に抵触して、予定通りの家屋を建てることは危険となり、だいぶ材木が余った。二三室の家屋を建てるには充分の量である。土蔵住いでは御老母にも気の毒だし、思い切って新築しないか、そういう話なのである。大工などもこちらから差向けてよろしいとのこと。材木代や工賃などは、すぐに頂けないとすれば、証書を入れておいて貰いたいと、それだけの条件である。
桂介と久子は相談の上、新築の決心をした。桂介が勤めてる会社は、陶器工業の本社で、将来発展の見込みは充分ある。いずれ金の融通ぐらいは出来るだろう。一時、木村から借りておくのだ。ただ問題は、母カヨを説得することだった。
土蔵のカヨの生活は、どこから見てもよろしくない。子供達にも土蔵はよろしくないようだ。なんだか暗い影がさすのである。新築の明るいところへ移ったら、
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