そういう騒ぎのあとで、猫は虫下しの薬をのみ、寄生虫が果して出たかどうかは分らないが、まもなく回復した。そしてカヨの肩にも駆け上るようになった。肩に乗るのが猫は好きで、彼女が坐っていても、立っていても、さっさと駆け上り、彼女が静かにしておれば、その後ろ襟の頸もとにうずくまって、眠ることさえある。カヨは髪を染めることをせず、もうだいぶ白毛も目立ってきたが、その赤らんだ半白の束髪のうしろに、真白な仔猫が乗っかってるさまは、いささか奇異な感じである。
「この頃、お母さんはなんだかへんですね。どうなすったんでしょう。」と久子は桂介に言った。
 庭というほどの作りは何もない傍の空地には、大きな石灯籠が一つあり、大きな庭石が幾つも残っている。春先のことで、暖い日など、カヨはそこに出て、石の上に腰をおろし、日向ぼっこをしながら、じっと思いに沈んでることがある。肩には仔猫が乗っている。猫はその辺を駆け廻ろうともせず、彼女の肩に乗っかったまま、やはり日向ぼっこをしながら、時に頭を動かして、あちこち眺め渡している。カヨと猫は一体で、カヨは物を考え、猫は物を探索してるかのようだ。
 怪しいことがある、とカヨは
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