酒に酔ったりして。」
猫に卵酒を飲ましたのである。
猫の玩具には、ビー玉だの糸巻だのがあるが、新聞紙を小さく切って丸めたのが、いちばん倦きないらしい。その紙のつぶてを投げてやると、猫はあちこちへ転がし駆け廻って遊ぶ。紙のつぶてが隅っこへはいると、口でくわえて室の真中に持って来、なおしばらくじゃれて、それからつぶてを喰いやぶる。また新たな紙のつぶてを投げてやると、猫は同じようにして遊ぶ。しまいには、食いやぶられた新聞紙の破片が室中にちらかる。それをカヨは丹念に掃き清める。猫はもうくたぶれて、炬燵布団の上に寝てしまう。カヨは写経の神聖な仕事にかかるのである。
或る時、夜中に、二階で鐘の音がした。いつもより強く、数も多い。しかも夜中だ。久子は驚いて、寝間着の上に丹前をひっかけるなり、駆け昇っていった。カヨが仔猫を抱いて、寝床の上に坐っている。仔猫は二三日前から病気らしく、あまり物を食べず、泡みたいなものを吐いていた。それが、急に様子がおかしくなり、手足はもう冷たくなった、とカヨは言うのである。久子にはよく分らず、桂介も起きて来た。猫はぐったりしていた。ともかくも、奇猫散をのませた。
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