ず、何でも食べた。そして寝る前の卵酒だけが、その日その日の楽しみのようである。楽しみばかりでなく、昔の裕福な生活の名残りの夢のようでもある。
家に仔猫が一匹いる。というよりも寧ろ、カヨがそれを飼っている。彼女が十日に一度ぐらいお詣りする一乗寺の、隣りの家から、貰って来たのである。全身真白で、一本の色の差し毛もなく、眼は水色をしていて、短かめの尾の先端が少し太くなっている。その仔猫をカヨはたいへん可愛がり、子供達にもあまりいじらせず、いつも身辺で遊ばせ、夜は抱いて寝る。二階の隅に、糞便用の砂の箱を置き、それの掃除はいつも自分でする。猫もまたすっかり彼女になつき、彼女が外出する時は、犬のように後を追う。彼女が食べる物なら、たいてい食べる。菓子も食べるし、ほうれん草のうでたのも食べる。卵酒の中にとけてる卵のみも、酒の気をしぼってやれば食べる。
或る晩、二階で、猫がひどくあばれ騒ぐ音がし、それから、猫は階段に出て来て、駆け降りたり、駆け昇ったり、途中に止って身を隠したりした。気が狂ったようでもあり、楽しそうでもあった。カヨが追って来て、猫を抱き取った。
「静かになさい。なんですか、少しのお
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