佐ちゃんは祖母のペットだったが、どうだね。」
兄は私の方を見やった。私は露骨に眉をしかめてみせた。
「そんな唯物主義は、あたし大きらい。」
「これは驚いた、唯物主義ときたね。然し、唯物的理想主義というものもあるよ。」
「あたしは、精神的理想主義……。」
「だいたい、女は理想主義で、そして男は、当面の問題を処理してゆけばいい。そんなところで妥協しないかね。」
「まるであべこべじゃないの。」
私は忌々しくなって、ビールをぐっと飲んでやった。
「第一、お祖母さまの初七日なのに、故人のことを忘れるとか忘れないとか、そんなことがよく言えたものだわ。」
「一般論をしているんだ。なんだい、べそをかくなよ。」
利光さんは笑った。
「そんな議論より、僕がいい所へ連れてってやろうか。ディズニーの総天然色長篇映画が来てるんだ。美佐ちゃん、一緒に行こう。」
私は眉をしかめ口を尖らしてやった。ひとの室に侵入してきて、酒を飲んで、ひとをからかって……。そう言ってやりたかったが、止めた。私はまたビールを飲んだ。
襖が開いて、母が顔を出した。
「こんなところにいたんですか。皆さんがあなたたちを探していらっし
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