っぽいところもあり、ひどく厳格な怖いところもあり、声高く笑い興ずることもあり、真正直な理屈を主張することもあり、どうも形態の知れないひとのようで、親しみにくかった。ところが、祖母の病気のことから、ひどく私の気にかかることが起った。
 二ヶ月ばかり前の頃だった。A叔母さんが見舞いに来て、茶の間で暫く母と話していった。私もその席にいた。祖母の病気はまださほど重いとは見えなかったが、母はいろいろ容態を話して、何しろ老年なのでと訴えた。すると、A叔母さんはじっと考えてる風だったが、突然、眼が宙に据わり、頬の肉が緊張した。そして何やら独り頷いて、やがて言った。
「お大事になすったが宜しゅうございますよ。」
 もとよりその通りで、老年の病気は大事にするのが当然だ。けれど、その時私がへんに思ったのは、大丈夫でしょうとか、やがてお癒りなさるでしょうとか、慰めの言葉を一言も言わないことだった。今になって考えてみると、A叔母さんは祖母の死期を予感していたのではあるまいかとも疑われる。
 それからも一度、へんなことがあった。
 祖母の衰弱がまだひどくならない前、気分のよい時、A叔母さんはまた見舞いに来て、祖
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