らの縁側の、硝子戸の中に、北川さんと妹さんが何か話していた。
おれは梅の木を見上げた。いろいろな思いが絡んでるので、身内のような気がした。
北川さんが硝子戸をあけて、おれを呼んだ。
「よく来たね。」
昨日と同じ挨拶だ。はればれとした顔をしていた。
だが、それよりも、おれはびっくりした。梅子さんがとても美しかった。近くで見たのは、いや、ほんとに逢ったのは、初めてだ。梅子さんは日向にひきずりだした布団の上に、脇息にもたれて坐っていた。髪はおさげにして編んでいる。※[#「糸+慍のつくり」、第3水準1−90−18]袍にくるまった体はひどく細そりしている。ほんの少女という恰好だ。でも顔は一人前の女で、朝日の光りを受けてるせいか、肌が透き通ってるように見える。眼が黒々として底が分らない。下頬にぽつりと肉のふくらみがあって、小さな受け口だ。その全体がおれにはびっくりするほど美しく思われた。兄さんには殆んど似ていない。しいて探せば、額と耳が似てるぐらいだろう。
おれがびっくりして梅子さんを見ていると、北川さんは言った。
「梅子は、君を医者よりも頼りにしてるよ。薬より魚の方が好きだからね。」
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