て置《お》いたのです。それを見て猿《さる》は、鬼《おに》の人形の中からどなりつけました。
「不都合《ふつごう》な奴《やつ》だ。しかしおとなしく人形をだしたから、命《いのち》だけは助《たす》けてやる。どこへなりといってしまえ。またこれから泥坊《どろぼう》をすると許《ゆる》さんぞ」
 盗賊《とうぞく》どもは震《ふる》えあがって、逃《に》げうせてしまいました。
 猿《さる》は鬼《おに》の中からでてきて、甚兵衛と二人で、壊《こわ》れた人形を抱《だ》いて、非常《ひじょう》に悲《かな》しみました。けれども、いくら悲《かな》しんでもいまさら仕方《しかた》はありません。二人は壊《こわ》れた人形を持《も》って、田舎《いなか》の町へ帰《かえ》りました。
 甚兵衛はもうたいへん金を儲《もう》けていましたし、壊《こわ》れた人形を見ると、再《ふたた》び人形を使う気にもなりませんでした。猿《さる》も都《みやこ》を見物《けんぶつ》しましたし、そろそろ元《もと》の山にもどりたくなってる折《おり》でした。それで二人は、壊《こわ》れた人形を立派《りっぱ》に繕《つくろ》って、それを山の神社《おみや》へ納《おさ》めました。猿《さる》は山の中へもどりました。
 甚兵衛《じんべえ》は、もう誰《だれ》が頼《たの》んでも人形を使いませんでした。そして山からときどき遊《あそ》びにくる猿《さる》を相手《あいて》に、楽《たの》しく一|生《しょう》を送《おく》りましたそうです。



底本:「天狗笑い」晶文社
   1978(昭和53)年4月15日発行
入力:田中敬三
校正:川山隆
2006年12月31日作成
青空文庫作成ファイル:
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