をもたせ、橋の上にじかに坐って両足を投げ出し、月の光を正面から白々《しらじら》と受けて、二人の女がいた。一人は銀杏返《いちょうがえし》に結った年増で、旅館の女中らしい服装をし、一人は背も少し低く年も少し若く、小さな束髪に結って、白粉っ気のない浅黒い素顔で、膝に二歳ばかりの子供を抱いていた。
彼は初めの驚きが静まると、思わず二三歩近寄っていったが、言葉が独りでに先に出た。
「何をしてるんだい。」
銀杏返の女が、浴衣の上に褞袍《どてら》を重ねた彼の姿をちらと見上げて、落付いた調子で答えた。
「風流でしょう、橋の上からお月見で……。」
彼は苦笑したが、一寸その側を離れ難い気持になって、橋の欄干に腰をもたせながら、煙草を吸い初めた。二人の女は、彼が側にいるのを一向気に留めぬらしく、先程からの話を続けていった。同郷の者とか以前同じ所で朋輩だったとか、そういった風な親しい間柄で、而もだいぶ久しぶりに出逢ったものらしく、束髪の女が銀杏返の女へ向って、縷々として身の上を訴えていた。男に逃げられて、子供と二人で困っている、その後の処置に就いて、相談をしてるようだった。然し彼は、彼女等の話に耳を澄す
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