であなたのことを……。」
彼女が今にも泣き出しそうな渋め顔をしたので、彼は喫驚して打消した。
「分っています。今のは冗談ですよ。」
彼が無言のままぶらぶら歩いてる間、綾子は同じ所に屈み込んで、しきりに河原の石をかきまわしていた。
「何をしてるんです。」
「水中の夢子さんに、綺麗な石をおみやに持っていって上げるつもりですの。」
彼はふと涙ぐましい心地になって、一緒に石を拾った。それから仮橋の方を渡って宿に帰った。
その晩、彼は知らず識らず綾子の面影を心に浮べていた。夢にも彼女のことをみたようだった。
それから二日たって、洋造は東京へ帰った。汽車の窓から彼は、温泉の方を見えなくなるまで見送った。
「俺は綾子に心を奪われたくない。余りに不自然なことだ。」
其後、綾子は静子と一緒に彼の家へ一度遊びに来た。
それだけのことだった。けれど変に忘れられなかった。洋造はそれを自分の最後の清い幻として心の奥にしまい込んだ。余りに奥深くしまい込んでいつしか忘れていった。
それが、妻とああいう話をした後に、ひょっくり浮び出て来たのである。
「あれくらいのことは、世間にざらにあることだ。それを
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