子の変らない人はありませんね。」
 それから話は静子のことに落ちていったが、綾子はふと云い出した。
「あなたのことで私静子さんと議論しましたのよ。」
「え、私のことで……。」
 尋ねられると、彼女は急に黙ってしまったが、とうとう口を開いた。
「失恋して間もなく他の人と結婚するのが、いいか悪いかって……。」
 彼女は真赤な顔をした。彼も何故となく顔が赤らむのを覚えた。
「ああ私の昔のことですか。」
 静子や綾子がそれをどうして知ってるのか意外だった。恐らくその頃の彼の事情をよく知ってる伯母からでも、静子が聞き出してきたのだろう。
「失恋した後で結婚するのはちっとも不思議でないと、静子さんは仰言るのですけれど、向うの人を本当に愛していたら、他の人と結婚なんか出来ない筈だと、私はそう云いましたの。」
「それが本当です。」
「でも、あなたは……。」
「私のは……別ですよ。」
 白々とした額をのべて彼女がじっと覗き込んでくる……そういう感じに彼は変に心乱されて、立上ってそこらをぶらつき初めた。川風が肌に寒かった。
「ヒポコンデリーの獅子が失恋したなんて、可笑しいでしょう。」
「あら私、そんな意味
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