洋造は彼女の顔を見つめながら、つとめて平気な調子で云った。
「お前のように、そう無茶なことを云ってはいかんよ。俺は何も、お前に恥をかかせるだのお前を踏みつけにするだのと、そんなつもりではなかったんだ、よく気を鎮めて考えてごらん。お前に子供が出来る出来ないなんてことは、自分達の知ったことじゃないし、自分達の力でどうにもならないことじゃないか。俺はただ、子供がもう十四人にもなるので、一家が……栄えて……目出度いと思ったものだから……。」
彼が云い渋ってるのを、彼女は頭から押っ被せた。
「何が目出度いものですか。私に沢山子供が出来て他の女に出来ないのなら、兎も角も、私には一人っきりで、他の女にばかり出来るのが、何が目出度いものですか。そんな風な考え方をなさるのが、第一私を踏みつけになすってる証拠です。」
そういう彼女の考え方が、彼にはどうもはっきり腑におちなかった。云い争えば争うほど、益々変梃に分らなくなった。この上は彼女の気の鎮まるのを待って、ゆっくり話をした方がいい、とそう思って、腕を拱いたまま黙ってしまった。彼女はなお暫く、怒ったり悲しんだりしていたが、やがてぷつりと口を噤んだ。ぎ
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