親と十三人の子供との会合を、どうして八重子が嫌がるのか、彼には合点がゆかなかった。その上八重子の口振りによれば、彼女は何か新たな行動や思慮を取りかけているらしかった。彼はじっと八重子の様子に眼をつけ初めた。そして彼女の意外な変化に喫驚した。
どこか少しぬけてるらしいほど無反応だった彼女は、今では可なり敏感にさえなっていた。長男の一郎はもう小学校の五年生になっていたが、来年は中学の入学試験を受けなければならないと云って、八重子はひどく彼に勉強をしいて、彼が少しでも怠りがちな時には、酷しく叱りつけていた。そういう折に洋造が口を出したり、または、冬子ももう幼稚園に通うようになって世話がやけないから、お前が少し俺の用をも手伝ってくれと、洋造が忙しさの余り云い出したり、其他子供に関係のある事柄が出てくる際に、八重子はともすると険悪な言葉付になって、ヒステリーを起しかねない気色さえ示すことがあった。この前大阪のお蔦に子供が産れた時などは、些細なことに本当のヒステリーを起して、四五日むっつりと黙り込んでいた。いつも人形のようにちんまりと坐ってはいるが、眉根をぴくりぴくりと震わせることが多かった。
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