婚したが良人に死なれて、今は自家に戻ってるそうだった。
彼は先ずその女に逢ってみた。蒼白く痩せてはいるが可なりの美貌だった。ただ少し頭にぬけてる所がありはすまいかと思われるほど、無反応な張合いのない人形のような女だった。彼は自ら進んで、自分の過去の経歴や人生観などを語ったが、彼女は黙って聞いてるきりで、彼の失恋のくだりなどにも、眼に涙一つ浮べなかった。そして自分の方の経歴については、余り話したがらなかった。それでも最後には要領よく、彼との結婚を承諾した。それが今の妻の八重子である。
八重子と結婚してからは、洋造の生活は万事順調に進んだ。父の遺産は次第に殖えていった。お千代とお常とは幸に多産で、お千代は五人の子を産み、お常は四人の子を産んだ。それから洋造は、仕事の関係上大阪へ行くことが多かったので、大阪にも一人の妾を置いたが、それが二人の子供を設けた。それらの子供の入籍を、時によると年に二人もの入籍を、八重子は平気で承諾した。ただ八重子自身は、結婚後四年目に、冬子一人を産んだばかりだった。
「兎に角一家繁昌で目出度い。」と津田洋造は考えた。
その目出度い一家の、一人の父親と四人の母
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