なものをぬきにして、実質的な重みのある子供を思う存分豊富に拵えてやれ。」
そして彼は、友人の紹介で或る秘密な家へ出入して、其処で出逢った女に、先ず腕相撲を挑んだ。大抵は相手にされなかったが、中に一人、顔はそう綺麗でなかったけれど、恰幅のいい腰のどっしり据った女がいて、彼に力一杯ぶつかってきて、何度も彼を打負かした。彼はその女に眼をつけて、遂に自分の所有にして、家を一軒持たしてやった。
それまではまだよかったが、そして其後二三の失敗の後、彼は自家の小間使のお常という女が、いつも頸筋にねっとりと鬢の後れ毛をからみつかせてるのに、ふと眼を惹かれて、その親元と交渉の末、家を一軒持たした時、彼の妻は遂に激昂して生家に帰り、離婚の請求をしてきた。それでも彼女は、自分の産んだ長男一郎を乳母の手に托して、後々の始末を立派につけておいてくれた。
離婚後洋造が最も困ったことは、お千代――腕相撲の強い女――とお常との腹に出来る子供の入籍問題だった。自分の子供は凡て庶子としないで嫡出子とすることに、彼の唯一な道徳的矜持があった。そこへ、折よく再婚問題が起ってきた。相手の女は、彼の会社の下役の娘で、一度結
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