うな会話をした。
「お前は私の結婚条件を聞いたろうね。」
「ええ、少しばかり……。」
「そして何と思った。」
「そんなことを表立って云い出す方は、却って信頼出来る人だと思いましたの。」
「では、お前は一生の冒険をして私の所へ来たんだね。」
「と云いますと……。」
「私が実際そんなことをするかも知れないし、またはしないかも知れない、というのを、凡て天に任せるといった気持で……。」
「そうかも知れませんわ。」
「それでは、私がそんなことを実際にするとしたら……。」
「諦めますわ。」
「諦めるって……。」
「影に隠れて変なことをされるよりは、公然とされた方が却ってよいと、そう思い直すつもりですの。」
「お前は可愛いい楽天家だね。」
「あなたは楽天家はお嫌い。」
「いいや、大好きだよ。私には悲観主義くらい嫌なものはない。」
 そして津田洋造は、その可愛いい楽天的冒険家たる妻のために、善良なる良人となろうかと、一寸思い直しかけたが、失恋の痛手や江ノ島の橋の感銘は案外根深いもので、新妻に対する彼の愛情を妨げると共に、彼を初めの意向に立還らしてしまった。
「子供を沢山拵えてやれ。恋とか愛とかいう空疎
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