赤くなるのを覚えて、すたすたと足を早めた。そして宿に帰ってすぐに寝た。
それだけのことが、自殺の決心をしていた彼の悲痛な心へ、変に生温くからみついてきた。彼は翌朝、伊豆の方へ向って出発した。前夜二人の女が足を投げ出して坐っていた所には、冷かな朝風が颯々と吹き過ぎていた。
彼は伊豆の温泉に四五日滞在した後、自殺の決心を飜して、急いで東京に戻ってきた。
それから数ヶ月の間、津田洋造は花柳の巷へ屡々出入したが、大学卒業後半年ばかりにして結婚する時から、それをぴたりと止してしまった。その代りに、媒妁人へ向って次の条件を持ち出した。
「私は結婚後は決して遊里へ足を踏み入れはしません。けれども、他に女を――素人の女をかこっておいて、子供を産ませるようなことはあるかも知れません。そのことを承知の上で、そして生れた子供は自分の子として入籍するのを承知なら、すぐにでも結婚しましょう。不承知なら、私の方からお断りします。」
そういう無茶な条件を、媒妁人は先方へ正しく伝えたかどうか疑問だが、兎に角縁談はすぐにまとまって、洋造は結婚してしまった。
結婚後三日目に、彼と妻とは、新婚旅行の旅先で、次のよ
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