が、どんな仕合せを持ってきてくれねえとも限らないさ。」
「何を云ってるんだよ、毛唐の爺さんと福の神とを間違えてさ!……またいつもの、お金を拾う夢でもみたんだろう。」
俺は苦笑して何とも答えなかった。湿っぽい一張羅をぬいで、木綿の平素着と代えながら、冗談にまぎらして云った。
「早く飯にしてくれないか。腹が空《す》ききってるんだ、昼飯を食うのを忘れたもんだから。」
「え、昼飯も食べないでいるの!」
同情したのか軽蔑したのか分らない調子だったが――恐らく両方だったろうが――兎に角彼女はすぐに食事にしてくれた。
足のぐらぐらする餉台の上には馬鈴薯《じゃがいも》と大根とのごった煮と冷たい飯とだけだった。それでも空《すき》っ腹には旨かった。これで熱いのをきゅーっと一杯やれたら……とそんな気がしたが、さすがに口へは出せなかった。子供達までが、如何にも旨そうに食っていた。廻らぬ箸の先からこぼれ落ちる飯粒まで、一々拾って食っていた。
「どうだ、旨いか。」と自分でも知らないまに言葉が出た。
「うん。」と答えて信一は、馬鈴薯を頬張りながら眼をくるくるさした。
「みよ[#「みよ」に傍点]はどうだい?」
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